「日本下水文化研究会」から「日本水循環文化研究協会」へ

理事長 酒井 彰

 第27回(2022年度)定例総会、この総会は、言わば日本水循環文化研究協会(以下「水循環協」)の設立総会の意味合いもあったわけですが、その総会において理事長の推され、承諾いたしました。

日本下水文化研究会(以下「文化研」)前代表の稲場紀久雄先生からは、次のことばをいただきました。

「日本水循環文化研究協会が歩む道は、決して平坦ではありません。新役員陣の皆様は、それを承知の上で、歩み出されました。私は、皆様の勇気と誠意に敬意を表します。そして、皆様と使命感を共有できたことを無上の喜びと致します。一時は文化研の解散を決意しました。しかし、私は、皆様と使命感を共有できたため、方針を改め、文化研の水循環協への改組を進めました。私は、ここに新役員陣に活動をバトンタッチできたことを心から嬉しく思います。『下水文化』は生活に埋め込まれた『水循環文化』です。水循環文化の全体像を解明することは、近代化を超えた未来の希望の扉を開くものです」

私は、文化研が法人化した1999年から20年間、代表を務めてまいりました。当時、稲場前代表から、「新しい酒は新しい皮袋に盛れ」と言われ、法人化した組織(皮袋)は、新しい者(酒)が担うべきだと理解して引き受けた記憶があります。本来の意味からすれば、新しいことができる組織を作って行きなさいということだったのに、革袋を何とか持ちこたえてきたものの、会員数や予算規模からすれば衰退の一途をたどることとなってしまいました。それでも、機関誌『下水文化研究』(年報)は33号を数え、会報『ふくりゆう』は100号を超えました。隔年開催の『下水文化研究発表会』は15回を数えるなど、たくさんの仕事を継続してきました。多様な活動、その大部分は文化研を立ち上げられた稲場前代表のご起案によるものですが、本会の特徴であると言えます。それは、2020年に刊行した「NPO法人化20周年記念誌」が物語っています。

しかし、3年前、「水循環基本法を”動かす”シンポジウム」といった企画は、当時の運営委員会では手に負えないというご判断から、稲場先生の再登場となったわけです。多くのNPOが活動の担い手の高齢化により、解散を余儀なくされています。稲場先生は、自分が立上げた組織が、他のNPOのように野垂れ死ぬようなことは強く拒絶され、一昨年の総会では、改組か解散かと覚悟されました。私ども運営委員も、時にはその大きな声に威嚇されながらも、稲場先生の熱意に何とか応えなければという気持ちになっていきました。どのように改組するかについて、さまざまな議論を重ねるなかで、本会の運営に携わってきた期間も長く、改組の中身、その多くは事務的なものかもしれませんが、一定部分を提案したことから、再び私に白羽の矢が立ったのだと思います。

23年前のように、軽い気持ちでは引受けられるものではないということは、重々承知していますが、かといって前代表のように強いリーダーシップで引っ張っていくことはできません。水循環協では、「水循環の健全化」、そして「水は共有資源」であることを訴え、水循環の健全化に向け、共有資源である水を守る担い手、つまり、「水守」を育てていくことをミッションとして活動していこうと考えております。そのことを広く伝えられることを期待して、このホームページもリニューアルしました。

改組へ進む過程で、水循環協のパンフレットを作成し、これからの事業活動の構想を示しました。従来からの活動を継続し、さらに、水循環協としての新たな活動も展開していくこととしています。これらを構想の段階から事業計画に移していくことは容易なことではありません。現在の陣容では、対応し切れません。私は、NPOはミッションを共有し、互いに考えを出し合い、支え合うことによって、実践を積み重ねていくコミュニティであると思っています。会員各位の活動参加を含めた、積極的なご支援、ご協力をお願いしたいと思います。

前代表から新役員陣に送られたメッセージのなかには、克服すべき3つの現実問題が示されています。それらは、①「近代化を先導した「要素還元主義」がわが国社会の全領域を覆い尽くし、縦割制度と縦割行政の弊害が顕在化している現実の克服」、②「部分最適化の努力が重ねられた結果、全体像が奇妙に歪んでしまった現実の克服」、③「刹那的な欲望に迎合する文化と技術文明、そして新自由主義経済成長政策に毒された結果、健全な水循環が損なわれた現実の克服」です。これらの問題の克服は、活動の目標とするには大き過ぎますが、活動を行う上での基本姿勢として堅持していくことで、渡されたバトンをつないでいきたいと思います。

稲場前代表には、今後とも評議員として、また、いくつかの活動の推進役として、未熟な新役員陣を支えていただきたいと思います。