「下水文化研究」13号・講演録

下水文化研究フォーラム「人と水の距離を近づけるために」

日本下水文化研究会では「人と水との関わり」を問い直していくことをテーマとしてきました。このフォーラムでの問題意識は、「水に関わる都市装置が、高度な技術に依存するようになり、水の問題が専門家の問題となってしまった」、「多くの人は、水から得られる恩恵だけを受け取り、水への関心は希薄化してしまっているのではないか」ということです。フォーラムでは、5人の講師によるさまざまな分野や立場から、人と水との多様な関わり方をに関する講演をいただき、人と水との距離を再び近づけるために何が必要かを考えていきました。最後に、新たな人と水との関わりの3つの目標と、それを形成するための4つの行動を採択しました。

以下、各講演の概略を紹介します。

『下水道のブレークスルー』 京都大学防災研究所教授 萩原 良巳

淀川流域を取り上げ、水循環システムモデルの構築とこの流域の震災リスクを図化して解説され、下水道のブレークスルー、すなわち、これまでの制約を突破し、新たなフェーズに向かうためには、下水道だけの小さな枠組みに閉じこもらず、河川、まち、人のそれぞれが見える階層の中で下水道を位置付け、下水道ができることとできないことをはっきり自覚することが必要であると述べられた。またこの講演で紹介された、水循環システムの概念図は、昨年(2022年)に行われたシンポジウム「日本水循環文化研究協会のこれからの研究・活動を考える」でも2名の講演者が引用するなど、先駆的な概念が提示されています。「自然の豊かさのある生活環境」をつくる裏面で「減災・防災」を明確に意識していくなど、技術と人の関係、自然と人の関係の核心にふれるような内容です。

問題提起と提言 日本下水文化研究会 酒井 彰

先述した問題意識について述べるとともに、すべての講演の後の議論と新たな人と水との関わりの3つの目標と、それを形成するための4つの行動について述べられています。

『河川文化の継承と発展のために』 芝浦工大教授 守田 優

都市化によって身近な自然環境が破壊されると、川を通じた人と自然の関係が希薄になり、自然を介してつながっていた人と人の関係も分断されてしまうので、川づきあいの復活は人づきあいの復活になっていくと論じられています。「河川文化」の最終的な目的は、コミュニティの復活なのではないでしょうか。

『古代から中世にかけての日本人と水』 泌尿科学研究会 鈴木 和雄

屎尿処理の専門家である鈴木氏は、平城京前後の時代、遷都は、屎尿・生活排水による環境汚染が大きな理由で、水のきれいなところを求めてのことだったと主張されています。貴族・官人と庶民の水と屎尿の始末について語られており、この時代、人の糞尿は、ほかの動物と同様、生態系にとっての資源であり、自然のサイクルに溶けこんでいたそうです。

『歴史的水流「四ツ谷用水」の復活に向けて』 仙台・水の文化史研究会 佐藤 昭典

佐藤さんの四ツ谷用水復活に向けた意図と経緯を語っていただきました。その意図は、“もう一つの広瀬川”として、川とまち、人と水との関わりの再現ということです。復活を実現するために、四ツ谷用水の歴史、仙台市の水循環の現状、用水復活による効果を市民へ伝える活動が紹介されています。水循環文化研究協会として、四ツ谷用水復活に向け、お手伝いをしようとしているなか、是非一読いただきたいと思います。

『情報化時代の市民活動』 日本下水道光ファイバー技術協会 谷口 尚弘

情報化のもたらす効果は、距離の克服と情報開示の進展による「情報の再編、新しい価値の創造」だと言われています。この講演後の情報化の進展は著しいものがありますが、市民活動にとって、さまざまな分野からの情報収集、さまざまな主体との協働することで、市民活動の質の向上、そしてより広範な情報発信など、我々が情報化とどう付き合っていったらいいかが論じられています。

下水道のブレークスルー 萩原 良巳 下水文化研究フォーラム講演 1158KB
問題提起と研究フォーラムでの議論  酒井 彰 下水文化研究フォーラム問題提起 305KB
河川文化の継承と発展のために 守田    優 下水文化研究フォーラム講演 619KB
古代や中世の人と水の関わり 鈴木 和雄 下水文化研究フォーラム講演 735KB
歴史的水流『四ツ谷用水』の復活に向けて 佐藤 昭典 下水文化研究フォーラム講演 1619KB
情報化時代における市民活動 谷口 尚弘 下水文化研究フォーラム講演 389KB

※そのほか、紹介文未稿ですが、講演リストは以下の通りです。

バルトン先生と周囲の人々 石井 貴志 バルトン忌講演 2024KB
国・地方の財政状況と上下水道事業の展望 石田 雄弘 関西支部水環境セミナー講演 1181KB
上下水道事業は終わっていない!
(パネルディスカッションと意見集約書)
石田三郎・木村淳弘・宮田和郎・(コーディネータ)稲場紀久雄 関西支部水環境セミナー・パネルディスカッション 751KB
洛中塵捨場今昔 山崎 達雄 定例研究会(関西) 1394KB
上賀茂明神川にかかわる生活の今昔 勝矢 淳雄 定例研究会(関西) 767KB
近世三都の水事情―大坂・江戸・名古屋― 山野 寿男 定例研究会(関西) 409KB
し尿処理技術の動向 河村 清史 定例研究会 1193KB
東京都の清掃技術・その原点を語る 稲村 光郎 定例研究会 1599KB

 

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